自律訓練法

心と体の緊張をゆるめるリラクゼーション法

 不安や心配事にとらわれているときは、心がイライラしているだけでなく、体にも無理な力が入っています。つまり、心も体も緊張して、力を抜くことを忘れてしまっているのです。そうしたとき、自律訓練法によって体をゆるめていくと、自然と緊張も取れてきます。

練習に取りかかるまえに

■ 練習は、落ちついた気分のときにやりましょう。
 不安なときに、自律訓練法で気分を落ち着かせたい、と考えるのは分かります。しかし、いきなり不安なときにやっても効果はありません。まずは落ちついた気分で練習を重ねることが大切です。いらいらしたときの対処として自律訓練法を使うのではなく、自律訓練法を通してイライラしにくい状態を作っていくのだと考えてください。

■すぐに変化を期待せず、根気強く続けましょう。
 どのていど練習すれば効果が出てくるかは人によって違いますが、2,3ヶ月は続けてみるつもりで取り組みましょう。練習を始めてしばらくは、ぼんやりした感覚しかつかめないのが普通です。そうしたとき、ややもすれば、こんなことを続けて役に立つのだろうかといった考えが浮かんで、練習をさぼってしまうようなこともあるかもしれません。
 こうした気持ちの揺れがあっても、また練習に戻っていけばいいのです。あせらず続けていくことで、やがて練習が毎日の生活の一部となり、その効果も確かなものとなってきます。


場 所

 練習での注意集中の妨げになるような刺激を減らすように工夫しましょう。そうした刺激には、たとえば室内外の物音や人の出入りといった外からの刺激と、尿意や空腹感、気になる用事といった内側からの刺激があります。ただ、こうした邪魔になる刺激を完全に取り除くことはできませんし、その必要もありません。できる範囲で、落ち着ける場所と状況を用意しましょう。

服 装

 注意集中の妨げとなる刺激は取り除くということから、ベルトや腕時計など体を締め付けるようなものは取りはずすかゆるめるかして、楽な服装で行ってください。トイレは、まえもってすませておいてください。

姿 勢

 床に寝転ぶか、椅子に座って行います。練習は、はっきりとした意識がある状態で行うことが大切です。横になった姿勢だと寝入ってしまうような場合は、椅子に座ってやるようにしましょう。ただし、不眠症の改善を目的として行う場合は別です。

① 仰臥位(寝ころんでの練習)
 布団やベッドなどの上に、低い枕をあてるか、まくらを使わず寝ころぶかします。両腕は、体から少し離し、肘が軽く曲がるようにして伸ばし、手のひらは少し上向きにします。両脚もかるく開き、足先はハの字になるようにします。寒いようなら、毛布などを掛けてもかまいません。そのとき、腕は毛布から出しておいてください。

② 座位(椅子に座っての練習)
 背もたれに頭をもたせかけることができるような椅子を使うときは、頭を背もたれにあずけ、腕は肘当てに乗せるか股の上に置きます。脚は肩幅ていどに開き、少し前に出します。
 背もたれが腰までしかない椅子を使う場合は、深めに腰掛け、一度背筋を伸ばし息を吸い込み、そこからゆっくりと息を吐きながら前屈みの姿勢を作ります。両腕は体の横にぶら下げるか、手首を支点にして太ももの上に起きます。脚の位置は、背もたれにもたれかかる場合と同じです。

 どちらの姿勢をとるにしても、そのまま少しまどろんでしまうくらいの、力の抜けた姿勢をとりましょう。

腹式呼吸

 こうした姿勢をとったあと、かるく目を閉じて腹式呼吸を始めます。このとき、無理に深い呼吸をしないよう注意してください。お腹がふくらんだりへこんだりするのに注意を向けながら、体のどこかに力が入っているのに気づいたら、息を吐くときにその部分の力をゆるめていくようにします。肩に力が入っている、眉間を寄せているといったことに気づいたら、無理に力を抜こうとするのでなく、息を吐きながら、そっとその部分をゆるめていくようにしてください。

練習の時間と頻度

 一回の練習時間は3分から5分くらいとし、長くならないよう気をつけましょう。そして、各練習の間に後で説明する「消去動作」をはさみながら3回繰り返し、それをワンセットとして、、一日3回実施するよう心がけてください。
 一度に長時間の練習をするのでなく、短い練習を数多くやる方が効果的です。

 

背景公式 : 気持ちが落ち着いている

 姿勢を整えたあと腹式呼吸を続けながら、呼吸をするたびに、「気持ちが、落ち着いている」という言葉を心のなかで繰り返します。そのさい、声に出したり、口の中でつぶやくのではなく、頭のなかで唱えるようにしましょう。
 ここで気をつけていただきたいのは、繰り返す言葉は「気持ちが落ち着いている」であって、「気持ちを落ち着けよう」とか、「気持ちが落ち着いてくる」ではないということです。つまり、気持ちが落ち着いた状態を作り出そうとするのでも、落ち着いた状態になるのを待つのでもなく、既に落ち着いている状態をそのまま感じ取ろうとする姿勢が大切です。こうした注意の払い方を「受動的注意集中」と呼び、この後の各練習段階でも大切な注意の向け方になります。

消去動作 

 背景公式「気持ちが落ち着いている」を繰り返しながら、気持ちの落ち着いた状態をそのまま感じ取ったあと、「消去動作」に移ります。
 消去動作では、目を閉じたまま2,3回手を握ったり開いたりし、続けて数回腕を曲げ伸ばし、そこからのびをするように腕を上にあげながら目を開き、深呼吸をします。

 自律訓練では自己催眠の状態になり、この「消去動作」をやらずに練習を終えると、ぼんやりした感覚が残ったり、ふらついたりすることがありますので、毎回の練習の後には必ず「消去動作」をやりましょう。


ステップ1:重感練習 《右腕が重たい→左腕が重たい→両腕が重たい》
 《右脚が重たい→左脚が重たい→両脚が重たい→両腕、両脚が重たい》

 姿勢を整え、背景公式「気持ちが落ち着いている」を4,5回繰り返したあと、まず、利き腕から始めます。右利きの方なら、頭の中で「右腕が重たい」という言葉をゆっくりとくり返しながら、右腕に注意を向けます。大切なのは、このとき無理に重たくしようとするのでなく、右腕にどのような感覚が起こってくるのか興味を持って待ってみる、という心構えです。ぼんやりとでも重いような、だるいような感じがつかめたら、その感じを味わいながら「右腕が重い」という言葉を4,5回繰り返します。そのあと、「消去動作」をやって、1回目の練習を終えます。時間にして3分から5分くらいで一回の練習は終わります。そこから続けて2回目、3回目の練習へと移ります。

 この練習を1,2週間続け、右腕の重い感じがつかめてきたら、つぎは右腕が重たいに続けて「左腕が重たい」という言葉を加えて練習し、最終的には「右腕が重たい・・・左腕が重たい・・・両腕が重たい・・・両腕が重たい・・・両腕が重たい」と頭の中で繰り返すようにします。
 そして、各練習のあとには必ず「消去動作」を行ってください。


《両脚が重たい》

 右腕、左腕、両腕という順で重感練習を進めたあと、次は脚の重感の練習に移り、「右脚が重たい」、「右脚が重たい、左足が重たい」、「右脚が重たい、左脚が重たい、両脚が重たい」と進めていきます。このステップの最終段階では、「右腕が重たい・・・両腕が重たい・・・右脚が重たい・・・両脚が重たい・・・両腕、両脚が重たい・・・両腕、両脚が重たい」といった公式を繰り返すことになります。

 それぞれのステップの練習は1,2週間かけ、完璧を求めることなく、次のステップに移るようにしましょう。


ステップ2:温感練習 《右腕が温かい→左腕が温かい→両腕が温かい》
 《右脚が温かい→左足が温かい→両脚が温かい→両腕、両脚が温かい》

 重感練習の次に、両腕と両脚がじんわりと暖かくなるのを感じる温感練習に移ります。温感練習を行うときは、室温に注意してください。寒い室内では温感を感じにくいので、暖房を入れるか、毛布などを体に掛けるなどするといいでしょう。

 背景公式「気持ちが落ち着いている」に続けて、「右腕が重たい・・・両腕が重たい・・・右脚が重たい・・・両脚が重たい・・・両腕、両脚が重たい」と重感練習の公式を唱え、それに続けて「右腕が温かい」と温感練習に移行します。そして、重たさに意識を向けながら,自然に温かくなるのを待ちましょう。リラックスしてくると血液の循環が良くなり,手先足先まで心臓からの温かい血液が行き渡るようになります。温感が感じられるようになるまえに、手先が「ジワーッ」とふくらんだような感じが起こったり、少しむずがゆいような感覚が起こるようなこともあります。

 右腕の温感が感じられたら、次に左腕に移ります。ここでも最初は重感から入り、その後に「右腕が温かい・・・左腕が温かい」と繰り返します。最後のステップでは温感の公式に続けて「右腕が温かい・・・左腕が温かい・・・両腕が温かい」となります。


《両脚が温かい》

 重感の練習と同じように、両腕の温感のあとは両脚の温感へと移ります。ステップ2の最終段階では、「右腕が重たい・・・両腕が重たい・・・右脚が重たい・・・両脚が重たい・・・両腕、両脚が重たい・・・右腕が温かい・・・両腕が温かい・・・右脚が温かい・・・両脚が温かい・・・両腕、両脚が温かい」といったふうに頭の中で繰り返すことになります。



  自律訓練法の公式練習では、このあと、
   ステップ3 心臓調整練習「心臓が規則正しく打っている」
   ステップ4 呼吸調整練習「楽に息をしている」
   ステップ5 内臓調整練習「お腹が温かい」
   ステップ6 額部涼感練習「額が心地よく涼しい」
   という練習へと進んでいきます。

 必要があればその後のステップについても指導を行っていきますが、ひとまずはステップ2の《温感練習》まで進むことを目指しましょう。この段階まででも気持ちのよいリラックス感を体験できます。