不合理な信念と合理的な信念

自分をしばり付ける思い込み

 「なんくるないさ」というのは沖縄の方言ですが、「なんとかなるさ」といったくらいの意味合いの言葉です。なにか困ったときに、「なんくるないさ」がふと浮かんでくるなら、ずいぶんと気持ちが軽くなると思いませんか。一方、そうしたときに、「どうせ、おれ(私)なんか」といった言葉が浮かぶようなら、まちがいなく落ち込んでしまうことでしょう。

 私たちは成長する過程で、あれこれの「思いこみ」を身につけてきます。そうした「思いこみ」のなかには、「なんくるないさ」のように私たちを生きやすくしてくれるようなものもあれば、「どうせうまくいかないだろう」といったように、どうも生きづらくしてしまうようなものもあります。

 こうした「思いこみ」を、認知行動療法では「信念」と呼びます。私たちは自分が経験するあれこれの出来事や状況をそのまま受けとめるのでなく、こうした「信念」で色づけして受け取っているのです。言ってみれば、私たちは「信念」という色眼鏡を通して、自分自身を、そして世の中を見ているのです。

 自分を生きづらくさせている「不合理な信念」に気づき、それを現実に即した「合理的な信念」に変えていくことで、自分自身や周りの世界がこれまでとは違ったものに見えてきます。

不合理な信念と合理的な信念との見分け方

(1)その信念は、あなたを前向きにしてくれますか?
  ・できなかったことでなく、やれたことをとらえようとしていますか。
  ・いやな気分を引きずるようなものになっていませんか。
  ○前向きな気持ちを生み出さないような信念は、不合理な信念です。

(2)その信念は、事実をふまえたものですか?
  ・どのようなこと(事実)から、その信念はたんなる思い込みではないということができますか。
  ・過度の一般化をしていませんか。本当にそれはいつも起こることですか。
  ○自分の信念に合うようなことばかりを拾いあげて作り出した信念は、不合理な信念です。

(3)その信念には、柔軟性がありますか?
  これは一つの考え方であり、他にも違うとらえ方があるということを、あなたは受け入れることができますか。
  ○他の考え方をゆるさないような信念は、不合理な信念です。

よくある不合理な信念

(1)「ねばならない」という思いこみ
 「約束は守らなければならない」、「人には優しくしなければならない」など、私たちはいろいろな「ねばならない」を持っています。そのすべてが不合理な信念だというのではありませんが、こうした「ねばならない」には、いつでも、どこでも、自分の思うように事を運ぼうとする願望優先の態度が隠されています。

 たとえば、「人に好感を持たれる人間でないといけない」という「ねばならない」には、いつでも、どこでも、人に好感を持ってもらえるようでないといけないという完全主義的な願望が隠れています。人の気に入られたいと願うのは誰しもそうですが、世の中には私の嫌いな人がいるように、私のことを気に入らない人もいるはずです。そう考えると、お互い様なのでしょう。


(2)悲観的な思いこみ
 「ろくなことがない」、「どうしようもない」、「救いようがない」、「同じことの繰り返しだ」、「絶望的だ」といったような言葉を、しらずしらず口にしていませんか。こうした言葉の背後には、事実をはっきりと見ようとせず、悲観的な思いこみに流されてしまいがちな態度が隠されています。

 「何をやろうと無駄だ。どうしようもない」という人に限って、状況を無視した独りよがりの努力を続け、視点を変えてみようとしていないのかもしれません。こうした悲観的な思い込みを修正するには、何がどうなっているか事実をきちんと把握し、時と所が変わっても、その考え方が当てはまるのかどうか自問自答してみることです。


(3)自己卑下と非難の思いこみ
 ちょっとしたミスやうまくいかないことがあると、「こんなこともできない、ダメな人間だ」と自分を全否定するようなことをしていませんか。「ダメ」だったのは、あなたのそのときの行動であって、あなたのすべてが「ダメ」なわけではありません。同様に、対人関係がうまくいかないのは、あなたに人間としての魅力がないためではなく、あなたのそのときの行動に不適切な部分があったからかもしれません。

 これとは逆に、相手を頭から非難することで、自分の責任を回避しようとするような思いこみもあります。たとえば、夫婦喧嘩が絶えないのは相手の性格に問題があるからだ、と決めつけてしまうようなとらえ方がそうです。このように責任を相手になすりつけてしまうと一見気が楽なように思えますが、よく考えてみると、自分の力では夫婦の関係をどうにもできないということになり、結局は無力感を感じることになるのです。

 自分や相手を全否定してしまうのでなく、具体的にどのような行動が問題となっているのか、どうすればそれを改善できるか考えてみましょう。


(4)「耐えられない」という思いこみ
 「夫の態度には我慢できない」、「今の会社は耐えられない」というように、「耐えられない」という思いこみにとらわれているとき、「自分には耐えられないということが、なぜ分かるのだろうか」、「今まで耐えてきたのに、これ以上は耐えられないと思うのは、どういうことからだろうか」と自分に問いかけてみてください。「耐えられない」という判断は事実に基づくものなのでしょうか。それとも、気分に流された思いこみなのでしょうか。

 こうした視点から捉えなおしてみると、ときには、耐えられないという思いこみを支えているもう一つ別の思いこみ、たとえば、「自分には状況を変えるだけの力なんかない」といった思いこみに気づいたりすることもあります。